心臓は全身に血液を送り出すポンプの働きをしていますが、心筋梗塞や心臓弁膜症、不整脈など様々な心臓の病気や高血圧などによって、このポンプの働きに障害が生じ、色々な症状を引き起こしている状態を心不全といいます。心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です。
心不全には、急性心筋梗塞や過度なストレスにより、急激に心臓の働きが悪くなる「急性心不全」と心不全の状態が慢性的に続く「慢性心不全」があります。急性心不全は命に関わる危険性が高くなりますし、慢性心不全が急激に悪くなり、しばしば入院治療が必要な状態に移行することもあります。そして、入院のたびに全身状態が低下していき、進行していきます。
慢性心不全は生活習慣病(高血圧、脂質異常症、糖尿病など)との関連性が高く、高齢になるほど発症する方が増えてくる傾向があります。狭心症や心筋梗塞が原因であれば、冠動脈にステントを留置したり、場合によって冠動脈バイパス手術が必要となります。心臓弁膜症では弁を修復したり、取り換えたりする手術が必要となります。近年、侵襲の少ないカテーテル治療で治療することも増えてきています。
心不全治療の基本である薬物治療の目的は大きく分けて2つあります。1つ目は、息切れなどの症状を改善し生活の質をよくすることです。2つ目は、“予後の改善、つまり心不全が悪くなって入院することを防ぎ、長生きできるようにすることです。それぞれの目的に適した薬を使って治療する必要があります。
1つ目の目的に適した代表的な薬は、利尿薬や強心剤です。心不全になるとレニン・アンジオテンシン、アルドステロンなどのホルモンが多く分泌されて、体に水分とナトリウムが溜まる結果、体の中の水分が増え、息切れやむくみといった症状が現れます。利尿薬は体に溜まった水分やナトリウムを尿に出すことによって、うっ血を改善し、心不全の症状を軽くします。強心剤は心臓の収縮する働き(収縮機能)を助けて、血液を送り出すことをサポートする薬です。
2つ目の目的に用いられる薬としては、左室の収縮機能の低下が原因で起きる「収縮不全」では、①アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、ACE阻害薬が副作用などで使えない場合はアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)、近年ではACE阻害薬やARBからネプリライシン(NEP)とレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)を同時に阻害するARNIへの切り替え、②交感神経を抑制するベータ(β)遮断薬、③アルドステロン拮抗薬、④SGLT2阻害薬があります。これらの薬剤は、大規模臨床試験によって収縮不全の患者さんの予後を改善したり、心不全の悪化を抑えることが知られています。これらの薬は、心不全の症状はあるないにかかわらず、心臓の機能が低下していることが分かった段階から始めたほうがよいと考えられます。